AIを使いこなせる人材ほど、組織を去りやすい——McKinseyの最新調査が、そんな逆説的なデータを示しています。どうすればAI人材を組織に引き留められるのか? 「AIで生産性を上げよう」と旗を振る経営者にとって、見逃せない内容です。
できるAI人材に何が起きているか
AIは職場に急速に浸透しています。McKinseyの調査によると、職場でAIを使う従業員の割合は2023年の30%から2025年には76%へと急増しました。もはやAIは一部の先進的な社員だけのものではなく、多くの職場で日常的なツールになっています。
ところがその普及に伴い、ある構造的な問題が浮かび上がってきました。
AIを最も使いこなしている「AIクリエイター・ヘビーユーザー」層は、職場のエンゲージメントが最も高い一方で、離職意向も最も高いというのです。具体的には、ライトユーザーより7ポイント、非ユーザーより10ポイント、「3〜6ヶ月以内に退職する予定」と答えた割合が高かった。
なぜか。理由は明快です。できるAI人材は自分のスキルが市場でどれほど求められているかをよく知っているからです。
実際、Oxford Internet Instituteの研究者らが約1,000万件の求人データを分析したところ、AIスキルを求める求人はリモートワーク可・ポジティブな職場環境・育児休暇などの好条件を掲げる傾向があり、給与水準も相当高いことが明らかになっています。育児休暇を明示したAI系求人は約12%、ポジティブな職場環境を打ち出した求人は約20%給与水準が高くなっており、求人市場は企業内のAI人材に対して積極的に手を伸ばしています。
一方で、若手の雇用は減り、動けなくなっている
記事はもう一つの変化も記録しています。AIが日常業務に浸透するにつれ、エントリーレベルの採用が絞られているという現実です。McKinseyの2025年調査では、51%の組織が「生成AIによってエントリーレベルの採用ニーズが減少した」と回答。実際、アメリカの23〜27歳の大卒者の失業率は2019年の3.25%から2025年には4.59%に上昇しています。
一方で、入社3年以内の若手従業員の離職意向は2023年の37%から2025年には32%へと低下しています。一見ポジティブに見えますが、McKinseyはこれを「仕事への満足度が上がったから」ではなく、「外の労働市場が厳しくなったから動けなくなっている」と示唆しています。
AIが得意な上位層は引き抜かれやすくなり、若手・エントリー層は入口が狭まって動きにくくなる。組織の中でAIが格差を広げている構図です。
従業員が仕事に求める価値観は変わっていない
一方で、この記事が「変わっていない」と強調するのが、従業員が仕事に求める本質的な価値観です。
McKinseyが4年間追跡したデータによると、従業員が職場に留まる理由の上位は「意義ある仕事」「柔軟な働き方」「成長・昇進機会」「信頼できる同僚」「適切な報酬と承認」で、AIの普及前後でほとんど変わっていません。去る理由も同様で、「報酬・承認の不足」「リーダーシップへの失望」「成長機会の欠如」が上位を占めています。
テクノロジーがどれだけ変わっても、人が働く動機の根幹は変わらない。これはある意味、当たり前のことです。しかし多くの組織がAIの導入に注力するあまり、この基本を後回しにしていないでしょうか。
筆者の見解
この記事はアメリカの求人市場を対象にした調査であり、日本にそのまま当てはめることには注意が必要です。アメリカほど労働市場の流動性が高くない日本では、「AIが得意な人ほど外部から引き抜かれる」という構図は、そこまで顕在化していないと思われます。ただ、「AIが得意な人ほど辞めるリスクが高い」という本質的な方向性は、日本でも同じです。優秀なAI人材がより良い環境を求めて動き出す流れは、日本でもすでに始まっていると感じます。
日本固有のAI人材の問題
また、日本固有の問題として、もう少し内側の要因にも目を向ける必要があると思います。
AIを使いこなせる人材が現職に不満を感じる理由として、外部市場の魅力以上に、今の組織の中で感じる閉塞感が大きいのではないか。経営陣や上司が自分よりAIの知見に乏しい。事業環境の激変に対する危機感を共有できない。周囲のAIへの温度感が低く、熱意や危機感を一人で抱えている。保守的な風土の中でAIを深く使う機会自体が限られている。生産性を劇的に改善しても、年功序列のもとでは給与に反映されない——。
これらは外部の好条件に引き寄せられる「プル型」の流出ではなく、今いる組織から押し出される「プッシュ型」の流出です。日本企業で起きるのは主にこちらだと思います。そしてこのプロセスが続くと、組織に残るのはAIに消極的な人材だけになっていく。AIを推進しようとした結果、組織のAI活用能力が静かに、しかし確実に劣化していく——これが最も恐ろしい帰結です。
この処方箋は、評価を上げるだけでは解決しません。会社がAIを経営戦略に位置づけているか。AIを深く使いたいという気持ちをくみとる環境になっているか。生産性への貢献が正当に評価される仕組みがあるか。これらが整っていない組織では、AIが得意な人材は遅かれ早かれ内から外へ押し出されていきます。
あなたが今日から行動するために
あなたが経営者であれば、あなたの組織でAIを使いこなしている人たちに、率直に聞いてみてください。「今の仕事の環境で、AIを使い倒せていると感じますか」と。その答えの中に、組織が抱えるリスクのすべてが詰まっています。
もし行動するなら、まずこの3つから始めてみてはどうでしょうか:
- 経営者が自らAI事例を収集し、経営戦略に位置づける:経営者自身が国内・海外のAI先進事例をインプットし、経営戦略としてAIにコミットしていくことを社員に示す。AIを「現場の話」ではなく「経営の話」として位置づけることで、AI人材は「会社はAI活用に本気だ」と信頼を感じるようになります。
- 経営者自身がAIを活用する:経営判断や知識の強化など、経営者自身がAIを実務で使い続ける。そしてその内容を社内で共有する。経営者がAIを使っているということ自体が、AI人材の「自分しか取り組んでいない」との疎外感を取り除くことにつながります。
- 業務内容にAI活用を加える:業務内容にAI活用を加え、評価項目に位置づける。それにより、AI人材は「AI活用で会社に貢献できている」という実感を得られるようになります。(ただし、AI活用方法の設計を部下に丸投げしないようにしましょう。)
参照元記事
- タイトル:How AI is—and isn’t—changing the future of work
- 掲載:McKinsey People & Organization Blog/2026年4月6日
- URL:https://www.mckinsey.com/capabilities/people-and-organizational-performance/our-insights/the-organization-blog/how-ai-is-and-isnt-changing-the-future-of-work
免責事項
本記事は筆者とAIによる要約・見解であり、参考元記事の翻訳ではありません。